ブライスオービタル †
- 場所は全体マップ左側の落陽の砦の右上辺り。
崖の上にあり落陽の砦側からは登りにくいので逆側から登るほうがスムーズ。
落陽の砦付近で発見
音声
12日目。ブースターが炎の柱を噴き上げながら夜空に弧を描いてる。
手を握って、母さんは、言った。“家族の物語を空に描いたのね”って。
テキスト:
母さん、
これで最後だ。これが終われば言いたいことはすべて言い終わる。
定期打ち上げとはいえ、俺らにとってはアポロ11号も同然だった。
自分で手がけた初めての積み荷。
俺が設計した改良型推進システム搭載の捜索/採掘機だ。
機体はM89282という、ルテニウムとタングステンが豊富な小惑星を目指すことになってた。権利元はメタラージック。家ぐるみでのご縁だね。
日が暮れて星々が現れる中、母さんと外に立っていた。
俺は当然ながら、何年も前の夜に一緒にペルセウス流星群を見て、この瞬間を夢見たことを思い出した。
母さんも同じ想いだった。
ブースターが夜空に炎の柱を描くのを見ながら俺の手を握って言った。
「家族の歴史を星空に描いてくれたんだね」と。
その時だって大げさだとは思った。
向かう先は星じゃなくて岩だったし、大発見の旅ではなくて定期の打ち上げだった。
でも細かいことはどうでもよかった。ただ笑って母さんの手を握り返した。
人生最良の日だった。母さんと俺。先へ、上へ。素晴らしい門出だった。
でも母さんが死んで俺がダメになってから、あの夜の意味は…変わった。
素晴らしいと思えていたすべてが腐り、偽りと化したように思えた。
偽りに思えたのは、それが本当に偽りだったからだ。星空には何も描いてなかった。
そりゃ、いずれそんなプロジェクトに関わればと願ってた。
深宇宙探査機とかコロニー船とか。
でもそうはならなかったし、キャリアが途切れるなら、それっきりになるだろう。
災禍について知ったことで、あの夜の記憶にさらに悩まされた。
星空に物語を描けなかったのは自分だけじゃなく、人類全員、種全体だったからだ。
数々の革新、無数の技術、際限ない努力…すべてが無に帰すなんて。
かなりの時間、星を見上げて過ごした。
そこに描かれた唯一の物語は、我々が小さく無意味で、ほとんど足跡も残さずにもうじき消え去るということだ。
しょうもないような酷い話だし、信じたくもない。
だからか、この12日間、別の物語を描こうとしてきたのかもしれない。
星空に描いた早大な叙事詩ではなく、我々が知り得た唯一の世界の質素な大地に描かれた小さな物語を。
生き延びてこれを読むことになる人や、それ以外の存在がいるとは思えないけど、そうなろうとなるまいと、物語は確固としてここに残る。
昔ある時、地球と呼ばれる惑星にバシャールという少年がいたこと。
その少年は母親を心から愛していたこと。
さようなら、母さん。愛しているよ。
2064年11月24日
アーマールとベイハス・マチの息子
ワイアット・マハンテの継息子
バシャール・マチ
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